いらっしゃい! <酒と肴>へようこそ!
はいはい。おや綺麗なお姉さんお二人で、嬉しいこってすな。
え? ええ、勿論どうぞお好きなお席に・・・。あり? あたしの前がいい?
あらら、そりゃどうもテレますな・・・って、ああ、何だ焼酎棚の前がいいって訳ですな? いや、ま、別にいいんですが・・・。
ほい、そんじゃあったかいおしぼりでも・・・。それからこれがメニューっと、焼酎のリストもいりますよね? うん、そりゃそうだ。
んで、お姉さん方はあたしの記憶が確かなら当店は初めてだと思うんですが・・・? あ、そう。良かったあってたよ。
ああ、なるほど。ネットを見たわけね? それで、焼酎がいっぱいあるお店だって聞いてきたって?
そうですなぁ、ま、ウチのお酒の売りは日本酒と本格焼酎ですが、数から言えば本格焼酎がよっぽど多いですな、うん。今大体150本以上はあるかなぁ?
ま、数えたこと無いんで良く分かんないんですが。
・・・え~っと、お姉さん方は焼酎がお好きなんで? ん? ああ、最近覚えてはまりかけてるトコロなわけね。
うん、昔でこそ焼酎って言えばオヤジの飲物みたいに思われてたけど、最近は焼酎も女性のファンが増えてきて実に結構な話ですな。
あたしとしてもやりがいが・・・。え? いや、別に男性客じゃやる気がでないって言ってる訳じゃないんですがね。
さてと、そんじゃ最初は何から行きましょうか? え? マスターにお任せしますって? ありゃりゃ、嬉しいこと言ってくれるねぇ。・・・とは言ってみたものの、こりゃ責任重大ですな。
え~っと、お姉さん方は最近焼酎にはまったってことは、まだそんなに色々飲んだわけじゃないんですよね? ああ、やっぱりそう。
それじゃあ、最初はライトなとこから攻めた方がいいですな。・・・う~ん、んじゃあこいつなんかどうです?
『仙頭』
こいつは高知の『土佐しらぎく』ってぇ日本酒を出してる蔵が出してる米焼酎。こいつを水割かなんかでやってまずは喉を潤しましょうや。
ね? いい? オッケー、んじゃあたしも一杯・・・、てへへ。さ、乾杯・・・っと。
うん、うまいね。今夜の始まりをビールでってのは定番だけど、タマにはこんな風に焼酎の水割なんてぇのもオツでしょ?
ゴクゴク飲むと乾いた喉に心地よく・・・って、このお姉さん達ホントにゴクゴク飲んじまったよ。いやいや、お強いですな。え? もう一杯? いいですよ。
ん? 水割は度数どんくらいかって?
そうさねぇ。この『仙頭』もそうだけど大体水割にする焼酎の多くはアルコール度数で25度ってとこだよね。
それを焼酎6に対して水4の水割にするから、ちょうど15度ってとこかな?
ああ、そうそう、良く知ってますね。そう、15度って言やぁ丁度日本酒なんかと同じぐらいの度数ですな。うん、だから日本酒と同じくメシ食いながら呑むのには丁度いい感じなんですよ。
・・・あ、メシって言ったって言葉通りの飯じゃないですぜ? 料理全般のことを言ってるんでさ。そんな風に水割ってのは気楽にやれるのがいいですな。
さてと、お次は・・・っと・・・。う~ん、それじゃあこいつはどうかな?
『海人』
こいつは『海人』と書いて『うみんちゅ』と読むんですがね、沖縄の方言。
そ、ご名答! 沖縄の方言が酒名になってるくらいだからこいつは沖縄の焼酎。つまり泡盛ですな。
ま、とは言っても焼酎初心者のお姉さん方に合わせて比較的軽めの泡盛ですがね。こいつはオン・ザ・ロックでやりましょうや。ね?
そ、ロックの場合何が大事かって言うと やっぱり氷ですかね?
ウチの場合はグラスの代わりにこうして冷蔵庫で冷やした湯呑を使ってるんですが――こいつが丁度いいサイズなんでさ――、そこにこの氷屋さんが届けてくれるブロックの氷をなるべくグラス・・・じゃなかった湯呑いっぱいの大きさにぶっかいたもんをひとつゴロンといれて、そこに焼酎を注ぐ・・・っと。はい、お待たせ。
うん、うまい? でしょ? こいつが製氷機の氷だとこうはいかない。
やっぱり氷を作る温度の違いなんだろうけど、製氷機の氷ってのはすぐに溶けっちまうんだ。だからせっかくのロックなのにすぐに水割みたくなっちまう。
それも、最初から水割として作ったものよりもよっぽど不味い水割にね。
でも、こうしていい氷を使ってやるってぇと、焼酎の持ってる味わいがキリッとしまった感じがしてなんとも言えない旨さを感じますな。
ああ、ただそれでもストレートと比べれば余計なものが入るわけだからまた違った味わいにはなるんですがね?
え? なんですって? ストレートでも味わってみたいって? いいですよ。それにしてもお姉さん方、お二人ともお強いですな。一緒に飲んでるあたしの方が負けそうですよ。
そうですなぁ・・・。せっかくだから次はこいつにしてみますか。
『一刻者』
こいつは鹿児島の方言で『いっこもん』って読むんですが、芋焼酎ですな。
鹿児島の小牧酒造ってとこが造って宝焼酎が販売をしている焼酎なんですが、こいつは麹も芋でしてね。要するに芋芋焼酎ですよ。
・・・あ、ちなみに大概の芋焼酎は麹には米を使って造ってるんですがね。うん、それでね、こうして麹にも芋を使うことによって味わいが非常に柔らかいというかやさしいというか、なんとも言えないふくよかな風味がするでしょ?
こいつをゆっくりと味わうには氷も入れずに常温でのストレートが一番いいんじゃないかと思うんですよ。さ、試してみてください。
こうね、ふあ~っと甘い香りが立ち昇ってきて、口に含んだ後もえもいわれぬ優しい甘さが残るでしょ?
わかる? あはは、それがわかるってことはお姉さん達ホントお好きですなぁ。
この瓶から注いだだけの・・・といってもこの焼酎は甕に移し変えてるけど・・・常温ストレートってのが、もっとも基本となる味ですな。蔵の想いを受け止めるのには一番いい。
ま、あたしらがはじめての焼酎を口にする時は必ずこうして飲んでみて、『この焼酎はどんな飲み方がいいかな?』なんて考えるんですが、ま、お客さん方は別段そんなことを考えて飲む必要なんかないから、純粋に楽しんでくれればいい。
え? ああ、お次ですか? そうですなぁ・・・。お、次は丁度今ご注文の揚げ物が出来あがるところですから、それに合わせてチョイスしましょうか?
うん、んで普通だったら揚げ物には麦焼酎かなんかの水割を合わせるところなんですが、今日はせっかくなんで色んな飲み方を楽しんでもらいたいから、ちょいとばかり遊んでみてもいいですかね?
あ、いい? 良かった。んじゃこいつを・・・。
『酢橘の宵』
こいつは『すだちのよい』ってぇ当店のオリジナルカクテルでして、麦焼酎の『いいちこ』をベースに、徳島産のすだち酢(100%の絞り汁)と甘味を加えてソーダで割ったもんなんですが、・・・ま試してみてくださいよ。
ね? ソーダの清涼感とすだちの酸味が揚げ物なんかには良く合うでしょ? んでもって『いいちこ』ってぇ焼酎はちゃんと麦焼酎らしさがありながら必要以上の癖が無いっていうこの酒のベースには丁度いい感じで、なかなか捨てたもんじゃないですぜ。
うん、焼酎の楽しさってのは何もロックやストレートだけにあるわけじゃなくて、こうしてカクテルなんかにしても味わえる懐の広さにあるんじゃないかって思うんですよ。言わば肩肘の張らない酒って言うのかな? そこが魅力的なんですがね。
あ、そうそう。いわゆるサワーや酎ハイってやつね。あれは甲類焼酎をベースに使ってるのがほとんどだから、お酒自体の味ってのは無いですな。
あれはあれでいいもんなんですが、ウチの場合基本的に『そのまま』飲めない焼酎は置いてないもんで・・・。
いや、甲類がそのまま飲めないってわけじゃないですが、やっぱり原料に由来する風味を楽しみたいとあたしとしては思うんですよ。
だから、ウチでは基本的にレモンサワーはやってないの。
なんでって? いやね、レモンサワーの場合は単純に甲類焼酎ベースの方が合うと思うんですよ。本格焼酎の場合どんなに癖の無いものを選んでもやっぱりレモンサワーのベースには合わない気がするんですよね。
ま、どうしてもって言われりゃ作りますけど、その場合はどっちかというとウォッカをベースにした方がいいんじゃないかなぁ?
ああ、失礼。話がそれましたな、どうも。
さて、次行きますか。え~っと、次はいよいよお湯割を試して見ますかい?
そう、お湯割。普段あんまり飲まない? そうかもしれませんなぁ。
でもね、焼酎ってのはさっきも言ったように色んな飲み方をして楽しいお酒ではありますが、その真骨頂はお湯割にあると言っても過言ではないんですぜ。ほんと。さて、そんじゃお酒は・・・。
『小牧』
こいつで行きますか。こいつはあたしが蔵にも行ってきて、直接お付き合いさせていただいている蔵の焼酎で、あたしのお気に入りでもあるんですよ。
うん? そう、芋焼酎でさ。やっぱり、お湯割りには芋焼酎が一番あうんじゃねぇかな?
ほい、これが『黒ぢょか』。ん? はじめて見ました? そうだねぇ。こいつはね、薩摩陶器っていう鹿児島県地方の焼き物の一種なんだけど、その伝統酒器でね。黒い鉱石が入った土を使って作るんで『黒ぢょか』ってぇ名前がついたなんて話をききましたが、あちらの方では昔はみ~んなこいつで飲んでたらしいですよ。
こいつにね、焼酎と水を合わせて一晩寝かせといたものを入れて燗につけるんだけど、ま、ウチではこの酒全部水とあわせて寝かせとけないからこの場で合わせるのだけは勘弁してもらうとして、こうして焼酎6に水4を合わせて『黒ぢょか』の中に注いでっと、そんでこいつをこの囲炉裏の炭で直火燗にするんでさ。
ほいほいっと、え~っと大体これで42~3度かな? 思いっきりぬる燗ぐらいで丁度いい。はい、お待たせ。お好みのぐい呑みを選んでくださいな。
ささ、それじゃおつぎしましょう。・・・ああ、気にしないで、あたしは手酌でやるから。
どう? ね、どう? どうしたの、二人ともそんなに目ぇ真ん丸くして。へへへ、でしょ~? 美味しいって? うんうん。お湯割の概念変わったでしょ?
こうして水割をぢょかに入れてゆ~っくりあっためてやることによって、芋焼酎の持つ独特の甘味がふわ~っと優しい丸みを帯びて、丁度なんて言うのかなぁ、焼き芋みたいって言うかね? なんかしあわせ~な気分になってくるでしょ?
そ、これが伝統的な薩摩のお湯割。ポットのお湯でただ割っただけじゃこの美味しさは体験できませんやね。・・・ま、もっとも最近では鹿児島の方でも便利だからって言う理由でほとんどの人はポットのお湯を使ってるらしいですがね。
ああ、そうそう。このお湯割に抜群に合うつまみがあるんですが、いかがです? 食べてみる?
はいよ、そんじゃちょっとお待ちを・・・。ほい、出来た。これ? 食べたこと無い? 干し芋を炭火で軽~く炙ったもん。何てこと無いつまみだだけど、やっぱり芋どうし。合わせると旨いよ。・・・でしょ?
ははは。しかし何ですなぁ。こうして綺麗なお姉さん方と干し芋をつまみながら芋焼酎のお湯割かなんかをしみじみやってると、仕事なんか忘れちまいそうですな。
え? なんですって? 仕事なんか忘れて飲みましょうって?
いやぁ、嬉しいこと言ってくれますなぁ。なんならそろそろ店も仕舞いですし、河岸を代えて飲み直したりしちゃいます?
あれ? ナンダナンダ? 向こうの方でバイトのK君が何か言ってるよ? ありゃりゃ、しまった! コリャ失礼しました。せっかくの干し芋が焦げちまったよ。ありゃりゃぁ・・・。済まんこってす。K君スマンね。許してくださいな。ね? 駄目? じゃあ、この後一緒に誘うからさ・・・。
2001
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